3月17日(日)10:30~12:30
渋谷 cafe「人間関係」にて
昨年発売された『82年生まれ、キム・ジヨン』を筆頭に、いま韓国文学が世界をにぎわせていますね!
そんな韓国文学隆盛の一端を担っている……と言って過言でないのが、今回課題本に選んだ『ホール』の作家ピョン・ヘヨンです。
2017年、『ホール』は韓国の小説で初めてシャーリイ・ジャクスン賞の長編部門を受賞するという快挙を成し遂げました。この賞は、ホラーや心理サスペンス的な要素をもつ作品に与えられるアメリカの賞で、過去にはスティーヴン・キングや小川洋子さんも受賞しています。
『ホール』の帯には、あの『ミザリー』を彷彿とさせる……なんて脅し文句(?)も書かれていて、とても怖そう。
このレポートでは、読書会のようすをお伝えするとともに、世界に認められた作品『ホール』の魅力について考えます!
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『ホール』のあらすじ
交通事故により、病院でめざめたオギを待っていたのは、混乱・絶望・諦め……。不安と恐怖の中で、オギはいやおうなく過去を一つひとつ検証していくことになる。それとともに事故へ至る軌跡が少しずつ読者に明かされていくのだが。わずかに残された希望の光が見えたとき、オギは――。(「BOOK」データベースより)
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※以下、ネタバレを含みます。
まずは第一印象から!
今回の参加者は4名。いつもより少なめの人数だったので、じっくり話し合うことができました。
まずは皆さんに、『ホール』の第一印象を伺いましょう!
・びっくりするほど読みやすくて、完成されているように感じた
・人間の描き方にリアリティがある
・エンタメのように読めて楽しかった
・絶望感・不条理感の描き方が好き
・過去を振り返って反省した
などなど……皆さん総じて好印象のようでした。韓国文学と聞くと「読みにくいんじゃない?」と身構えてしまう方も多いのですが、『ホール』は大変読みやすい小説です。カン・バンファさんの翻訳が素晴らしいのかもしれませんね。
暗い話なのに、こまごましたおもしろさがあってサクサク読めた、なんてご意見も。
あるいは、体が動かなくなってしまう状況を考えるのが恐ろしくて、自分と重ねて読めなかったという方もいらっしゃいました。
参加者のお一人が、「ポップミュージックなどの音楽は聴いて楽しくなるものだけど、文学は居心地の悪さを表現するもの」というようなことをおっしゃっていて、なるほど~と膝を打ちました。もし居心地の悪い小説ランキングを作ったら、『ホール』はベスト3に入るのではないでしょうか……!(※個人の意見です)
ちなみに居心地の悪い物語がお好きな方には、岸本佐知子さんが編纂された『居心地の悪い部屋』もオススメです。
登場人物の印象は?
その後、主要キャラクターであるオギ(主人公)・義母・妻の3人について思ったことを聞いていきました。
・とにかく義母が怖い
・もし自分が義母と同じ状況に置かれたら、同じようなことをするかもしれない
・オギの浮気が許せない
・オギは持っている側で、妻は持っていない側だから理解し合えないのではないか
・妻の方が現代的で魅力がある
この小説は最初から最後までオギの視点で描かれているので、義母・妻に対する描写もオギフィルターを通したものになります。
そのため、義母が実際以上に怖い存在として描かれていたり(これはオギの後ろめたさからくるものではという指摘もありました)、妻を見下しているような描写があったり……描かれた人物を通して、オギの人間性が垣間見えてくるおもしろさがありました。
そして、女性参加者からバッシングを受けるオギ! 「どうやってひとりで食っていくつもりだ?」って、妻に対して一番言っちゃいけない台詞だよね、なんて話で盛り上がりました。
オギと妻のおかれた社会的・経済的格差については、韓国社会やフェミニズム問題と照らし合わせて考えると何か見えてくるのかも……? 「韓国社会と文学」というテーマはラジオやwebの記事でも度々取り上げられている話題なので、気になった方は調べてみてくださいね。
作者は『ホール』で何を伝えたかったのか?
作品にこめられた本当の意図は、もちろん作者だけが知っているものですが……あれこれ想像してみるのも楽しいですよね。
2人は「絶望感・分かり合えなさ」だと答え、ある人は「どうしようもない状況から脱するためのハウツー本ではないけれど、この本を読んだ人が自分なりの解決法を探してみてもいいのかもしれない」と答えていました。
ほかにも、数行だけを抜き出して、ここはどういう意味なのか、登場人物はどう思っていたのか、どうすればよかったのか……と意見を交わしあう場面も。たった3、4行の中でも意見がわかれ、新しい発見がありました。一人で読んでいるときは気づかなかった発想に出会えるのも、読書会の醍醐味のひとつです。
はじめて韓国文学を読む! という方にもオススメの『ホール』。出会いの季節にぴったり……とは言えませんが、人生の穴に落ちないよう、じっくり考えながら読んでみてはいかがでしょうか~。
文:めだか
撮影:niku